ヨットハーバーで働く牧夫は、二世のヒガ**の助手として大島周航レースに参加していた。星空の下をシルフ号は他のヨットを大きく引き離して航走していた。交代で舵を取っていた牧夫は不思議な幻覚に襲われた。いつも見馴れている妖精の船飾りが牧夫に微笑みかけているのだ。幻影の怖しさにヒガ**の寝ているキャビンを覗いたが、そこで見てはならぬものを見てしまった。デッキにもどった牧夫の顔に恍惚とした表情に続いて険しい怒りがこみあげた。しかしそれも瞬間のことだった。「そうだ!俺も俺のヨットを持とう、俺だけのヨットを--」それ以来牧夫は別人のようになった。金を貯め始めた。そのためには手段を選ばなかった。ヨット使用料のピンハネ、船の塗装、ヨット客への恐喝、そんな牧夫を見て恋人の初枝は悲しんだ。しかし牧夫は取り合わなかった。そして初枝の弟の時次と一緒の時だけはいつも明るかった。...
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